ウラジーミルの微笑

海外文学・世界文学の感想を長文で書くブログです。池澤夏樹世界文学全集の全巻マラソンもやっています。

プロットを楽しむ

002『イエメンで鮭釣りを』ポール・トーディ/小竹由美子訳

電話やメールじゃなんだから ああら!あなたはもうわたしのことなんか忘れちゃったんだと思ってた。 いくらイエメンでも、インターネットカフェへ立ち寄ってちょっとメールするくらいのことができないだなんて、言わないでよね。最近どこかへ行っていて、だ…

039『歩道橋の魔術師』呉明益/天野健太郎訳

今 心の地図の上で 起こる全ての出来事を照らすよ 「・・・小僧、いいか。世界にはずっと誰にも知られないままのことだってあるんだ。人の目が見たものが絶対とは限らない。」(p.19) <<感想>> 珍しく引用、それも長いものからはじめてみたい。 一か月後の同…

『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット/小尾芙佐訳

たとえ世界が生き場所を見失っても ・・・そもそも自分の性には合わない優雅な職につきたいと日ごろから願っている人間に、自分の身の丈に合っていた職を捨てさせてみるがいい。その人間は必ずや、お恵み深い僥倖を崇めたてまつる宗教に凝るようになるだろう…

065『忘却についての一般論』ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ/木下眞穂訳

だからまだ ここで光が差すまで 家具を焼き、何千という本を焼き、絵画は全部焼いた。絶望があまりに深くなったある日、とうとうこのムクバル族を壁から下ろした。絵を掛けていた釘を引き抜こうとした。・・・そのときふと思った。この小さな釘が壁を支えて…

3-01『わたしは英国王に給仕した』ボフミル・フラバル/阿部賢一訳

おまえの手で漕いでゆけ お金を出せば、美女だけではなく、ポエジーも買うことができるのだ。(p.19) <<感想>> 最初に宣言しよう。この作品はおススメである。 それも、高校生くらいの方が読むと面白いんじゃなかろうか。もっといえば、家庭や学校の方針でア…

『瞳孔の中』クルジジャノフスキイ/上田洋子・秋草俊一郎訳

余りの暑さに目を醒まし 日常で少しよごしを入れて、そして絵の具の上からニスを塗るように、ちょっとした俗悪を表面に塗って—これはなしにすませる訳にはいかないのだし。最後に、哲学めかしたところを二、三加えて、そして—(p.141) <<感想>> 今回取り上げ…

『オデッサ物語』イサーク・バーベリ/中村唯史訳

渦巻く血潮を燃やせ この世界のありとあらゆるできごとを、このうえなく陳腐で平凡な話も含めて、私は不可思議な物語に作り変えることができた。(p.109) <<感想>> 最近私の中では20世紀前半のロシア文学がブーム。 ロシア文学ファンの中でも、プーシキンに始…

2-11『ヴァインランド』トマス・ピンチョン/佐藤良明訳

君はドレスに裸足のままで 六〇年代の政治闘争、ドラッグ、セックス、ロックンロール、みんなぶちこんだ映画つくンノ、これがワシらの野望でな。(p.70) <<感想>> きっとたぶん全部『重力の虹』が悪い。 重厚長大難解。全部嘘だ。むしろ軽妙にしてスピーディ…

『やんごとなき読者』アラン・ベネット/市川恵理訳

Send her victorious happy and glorious <<感想>> なんか流行ってるし、たまには軽いものでも、と思ったら予想以上に軽かった。行きの電車で読み始めて、家に帰るころには読み終わっていそうな分量。もちろん、軽いことは悪いことではなく、作品の品質とは…

2-08①『パタゴニア』ブルース・チャトウィン/芹沢真理子訳

投げ出さないこと信じぬくこと 「パタゴニア!」彼は叫んだ。「手ごわい女主人だ。彼女は魔法をかける。魅惑的だ。君をその手でとらえて、けっして放さない」(p.47) <<感想>> 私は旅行が苦手だ。 長距離の移動もさることながら、"sight-seeing"に興味が持て…

2-07『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ/木村榮一訳

今心が何も信じられないまま 外の野原は、ようやく長い眠りから目覚めようとしていたし、夜明けの光がまるでサーベルのように山々の頂きを切り裂いていた。日差しを浴びてぬくもった大地からは、夜露が白い水蒸気となって立ちのぼり、まわりの事物の輪郭をぼ…

2-03①『マイトレイ』ミルチャ・エリアーデ/住谷春也訳

バッドエンド至上主義 「アラン、見せたい物があるの」と、最高にへりくだったメロディアスな声で言った。(へだてのない言葉遣いができるように彼女はベンガル語で話していた。二人称が you 一つしかない英語の平板さが不服だった。)(p.102) <<感想>> 文明…

『ジェイン・エア』シャーロット・ブロンテ/河島弘美訳

残酷なブロンテのテーゼ 「ジョージアナ、あなたみたいに虚栄心が強くて愚かな生き物が、この地上に存在するなんて許されないわね。生まれてくるべきじゃなかったのよ。人生を無駄にしているんですもの。」(下巻、p.39) <<感想>> 『ジェイン・エア』は、多く…

『ミドルマーチ』ジョージ・エリオット/工藤好美・淀川郁子訳

文学的な、あまりに文学的な リドゲイトは初めて、些細な社会的条件が糸のようにからみついて、その複雑なからくりが彼の意図を挫折させようとするのを感じた。(第二部18章、1巻p.366) <<感想>> 3週間も更新が空いてしまったのは、この長い作品を読んでい…

『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ/木村浩訳

一物四価 アンナはショールを取り、帽子を脱ごうとしたが、そのひょうしに、カールしている黒髪の一束に帽子をひっかけ、頭を振って、髪を放した。(上巻、p.141)*1 <<感想>> この記事を書いている現在、当ブログでは20世紀の作品ばかりを紹介している。 …

1-08②『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ/土屋哲訳

アフリカの叙事詩? わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。当時は、タカラ貝だけが貨幣として通用していたので、どんなものでも安く手に入り、おまけに父は町一番の…

『大いなる遺産』チャールズ・ディケンズ/石塚裕子訳

月刊少年ピップ まったくいやな天気で、暴風雨だったし、通りはどこもかしこも一面泥、泥、泥だった。来る日も来る日も、茫洋として深く垂れこめる雨雲が東方からロンドン上空へ押し寄せてきたが、東方の雲と風とは無尽蔵だぞといわんばかりに、あいかわらず…

『ロビンソン・クルーソー』ダニエル・デフォー/平井正穂訳

物語の命脈 それからもう一つ面白いことは、三人しか臣民がいないのに、三人とも宗派がちがっていることであった。従者のフライデイはプロテスタント、その父は異教徒で食人種、スペイン人はカトリックだった。しかし、ついでながら、私は自分の全領土を通じ…

1-04③『悲しみよ こんにちは』フランソワーズ・サガン/朝吹登水子訳

プルーストはお好き? <<感想>> ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。その感情はあまりにも自分のことだけにかまけ、利己主義な感情であり、私はそれをほとんど恥じている…

『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ/山内義雄訳

モンテ・クリスト・ナンバー1 「学ぶことと知ることとはべつだ。世の中には、物識りと学者とのふた色があってな。物識りをつくるものは記憶であり、学者をつくるものは哲学なのだ。」 「ではその哲学が習えましょうか?」 「哲学は習えぬ。哲学とは、学問の…