ウラジーミルの微笑

海外文学・世界文学の感想を長文で書くブログです。池澤夏樹世界文学全集の全巻マラソンもやっています。

南米文学

003『通話』ロベルト・ボラーニョ/松本健二訳

七回目のベルで受話器を 彼女の声はいつものように冷たかった。・・・話し下手な人によくある、無関心な口調で自分の人生を語るあの声、余計なところに感嘆符を置き、傷をほじくり返してでも話すべきところで黙り込んでしまうあの声だった。(p.184) <<感想>>…

『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス/鼓直訳

きっかけは錯覚でもいいから 「聖書を信じるくらいですもの。わたしの話だって信じるはずだわ」(p.346) <<感想>> 今回は、だいぶ昔に読んだ作品の再読をしてブログのコンテンツを充実させるシリーズの第?段『百年の孤独』。そう、傑作である。 猫ならまだし…

『密林の語り部』マリオ・バルガス=リョサ/西村英一郎訳

あの日 目を覆った 隣のあなたは微笑む 戦争やイスラエルの国境での紛争でマスカリータに弾があたっていないように、私はタスリンチに頼んだ。(p.148) <<感想>> 文学などという一介のエンターテイメントが、なぜ大学で研究なぞされているのだろうか。 それは…

『パラディーソ』ホセ・レサマ=リマ/旦敬介訳

花が咲いたら晴れた空に種を蒔こう 世界全体の知恵の樹において、いくつもの枝をついばんだことがあることが見られただけでなく、そのあとで、その同じ樹の葉で、自分の激しい批判的情熱の木の実を差し出すのだった。何かを学びとっては、そのあとでそれを粉…

2-08②『老いぼれグリンゴ』カルロス・フエンテス/安藤哲行訳

情けないよでたくましくもある この地の唯一の意志は昔ながらの、悲惨な、混沌とした国以外のものには絶対にならないというかたくなな決意だった。彼女はそれをかぎとった。彼女はそれを感じとった。それがメキシコだった。(p.420) 私は何か大変に大きな勘違…

2-07『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ/木村榮一訳

今心が何も信じられないまま 外の野原は、ようやく長い眠りから目覚めようとしていたし、夜明けの光がまるでサーベルのように山々の頂きを切り裂いていた。日差しを浴びてぬくもった大地からは、夜露が白い水蒸気となって立ちのぼり、まわりの事物の輪郭をぼ…

1-02『楽園への道』マリオ・バルガス=リョサ/田村さと子訳

西欧の接ぎ木 「フローベールの小説『サラムボー』を読んだことがあるかね、牧師」とコケは訊ねた。 (中略)コケは彼に、あの本はとても素晴らしい本だったと言った。フローベールは燃え立つような色彩で、ひとつの野蛮な民族の偉大な活力や生命力、創造力…