『失われた時を求めて』
映し出された思い出はみな幻に 人は死んでも、その人が芸術家で自己の一部を作品のなかにとりこんだ場合、その人のなにがしかは死後にも残存すると言われることがある。もしかするとそれと同じように、ある人から切り取られてべつの人の心に移植された一種の…
認識論的、蒐集的 朝、顔はいまだ壁のほうへ向けたまま、窓にかかる大きなカーテンの上方に射す日の光の筋がどんな色合いであるかを見届ける前から、私にはすでに空模様がわかっていた。通りの最初の物音が、やわらかく屈折して届くとそれは湿気のせいにちが…
過ぎ去った季節に置き忘れた時間を おびただしい数の青いシュジュウカラが飛んできて枝にとまり、花のあいだを跳びまわるのを花が寛大に許しているのを目の当たりにすると、この生きた美も、まるで異国趣味と色彩の愛好家によって人為的につくりだされたかに…
君は、刻の涙を見る われわれは自分の人生を十全に活用することがなく、夏のたそがれや冬の早く訪れる夜のなかにいくばくかの安らぎや楽しみを含むかに見えたそんな時間を、未完のまま放置している。だがそんな時間は、完全に失われたわけではない。あらたな…
インターミッション 公開セミナー「新訳でプルーストを読破する」【過去記事】の公式twitter【参考リンク】にて、映画「スワンの恋」がテレビ放送されると知ったので、せっかくだから鑑賞してみた。 ところで、私は普段ほとんど映画は見ない。このため、俳優…
セミナー参加録 先日(2018年8月26日)、プルーストの『失われた時を求めて』に関するセミナーに参加させていただいた。 最初にどさっとそのセミナーの基本情報をご紹介したい。 名称:公開セミナー「新訳でプルーストを読破する」 司会:坂本 浩也 教授(立…
Overnight Sensation だが、それがどうしたというのか?今は、まだ花盛りの季節なのだ。(第4巻、p.533) <<感想>> 前回の「スワン家のほうへ」の記事【過去記事】では、一人でも多くの方にこの作品に触れてもらいたいという思いから、本作を読むためのコツを…
語りえぬものについても、沈黙したくない 小さな音が窓ガラスにして、なにか当たった気配がしたが、つづいて、ばらばらと軽く、まるで砂粒が上の窓から落ちてきたのかと思うと、やがて落下は広がり、ならされ、一定のリズムを帯びて、流れだし、よく響く音楽…