人に歴史あり
獲物を罠にかけたおばちゃんは、そう簡単には放してくれない。あのなんとか沿いの、どこそこ村の、かんとか夫人よ。だれそれさんの奥さんで、何某のお嬢さん―けれども、解説は非常に遠いところから(少なくとも三世代前から。誕生、結婚、職業上の地位、死因を含む)出発し、家系図は非常に複雑に枝分かれするので、レミは、それが結局は百歳にならんかというひいおばあちゃんのことだと知るまでに、いらいらと三十分は辛抱しなければならない。
<<感想>>
文学賞の意義を否定したい訳ではないが、書き手/売り手にとっての文学賞と、読み手/書い手にとっての文学賞では、その価値が全く異なる。
書き手/売り手にとって文学賞は権威か名誉か、はたまたいい宣伝文句にはなろうが、1年を1期、あるいは精々が所4年を1期として、その国あるいは言語地域、広くても目に映る限りでの世界のナンバーワンを決めるに過ぎない。
ところが、読み手の内奥で随時開催中の文学賞は、いまこの瞬間世界のどこかで呟かれた文章から、果ては28世紀前に遡り、翻訳という魔術の媒介を経て*1、いかなる言語地域の作品もノミネート可能だ。
野球やサッカーの世界歴代ベストメンバーは好事家の脳内でしか実現不可能だが、文学の世界では、作者が死してなお眼前で容易に比較できてしまう。
本作も、文学史の偉人達の前ではちょっと力不足かもしれない。しかし、ゴンクール賞(仏)受賞という華々しい肩書は伊達ではない(残念ながら、ベストセラーという好ましからざる肩書も持っているが)。
アデン、アラビア/名誉の戦場 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-10)
- 作者: ジャンルオー,ポールニザン,北代美和子,小野正嗣
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/11/11
- メディア: 単行本
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*1:訳者のみなさんにマジ感謝(ラップ調で)