ウラジーミルの微笑

海外文学・世界文学の感想を長文で書くブログです。池澤夏樹世界文学全集の全巻マラソンもやっています。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2-11『ヴァインランド』トマス・ピンチョン/佐藤良明訳

君はドレスに裸足のままで 六〇年代の政治闘争、ドラッグ、セックス、ロックンロール、みんなぶちこんだ映画つくンノ、これがワシらの野望でな。(p.70) <<感想>> きっとたぶん全部『重力の虹』が悪い。 重厚長大難解。全部嘘だ。むしろ軽妙にしてスピーディ…

『やんごとなき読者』アラン・ベネット/市川恵理訳

Send her victorious happy and glorious <<感想>> なんか流行ってるし、たまには軽いものでも、と思ったら予想以上に軽かった。行きの電車で読み始めて、家に帰るころには読み終わっていそうな分量。もちろん、軽いことは悪いことではなく、作品の品質とは…

『失われた時を求めて』第6篇「消え去ったアルベルチーヌ」マルセル・プルースト/吉川一義訳

映し出された思い出はみな幻に 人は死んでも、その人が芸術家で自己の一部を作品のなかにとりこんだ場合、その人のなにがしかは死後にも残存すると言われることがある。もしかするとそれと同じように、ある人から切り取られてべつの人の心に移植された一種の…

『クレールとの夕べ/アレクサンドル・ヴォルフの亡霊』ガイト・ガズダーノフ/望月恒子訳

ふたりでひとつになれちゃうことを <<感想>> ガズダーノフって誰? 本書はこの作家の本邦初の翻訳作品であるため、この記事を書くのにこの話題から始めないわけにはいかないだろう。 ガイト・ガズダーノフは、オセット人*1の両親のもと、1903年にペテルブル…

2-10『賜物』ウラジーミル・ナボコフ/沼野充義訳

輝ける君の未来を願う本当の言葉 百年後か二百年後に、ロシアではぼくは自分の本の中で、あるいは少なくとも研究者による脚注の中で、生きるだろうから。(p.556) <<感想>> 最初に少しモノを申したい。『賜物』という物語にではなく、『賜物』に付着している…