ウラジーミルの微笑

海外文学・世界文学の感想を長文で書くブログです。池澤夏樹世界文学全集の全巻マラソンもやっています。

海外文学入門者に贈る海外文学の買い方、選び方、探し方【レーベル解説編】

もうすぐ絶滅するというリアルの書店に寄せて(下)

この記事は、海外文学の世界を渉猟するためのガイドマップとなることを目指している。

後編である本稿では、各出版社/各種レーベルの解説記事を載せている。なお、いずれも書き手の強い独断と偏見で書いているため、異なる意見もあるかもしれない。また、取捨選択をして書いているため、網羅性はない。そのあたりはぜひご容赦いただきたい。

前編には海外文学にまつわる基本情報を書いているので、そちらも併せてお読みいただきたい。

岩波書店

重版出来

言わずと知れた老舗出版社。我が国の「文庫」の創始者である。海外文学に関しては、「文庫書下ろし」*1が多いが、現代文学作品がまれに単行本で刊行されることもある。

出版社URL:https://www.iwanami.co.jp/

直販サイト:なし(出版社サイトから注文は可)

岩波文庫

*2の色でジャンル分けをしており、白青緑黄赤の5色5ジャンルがある。我らが海外文学は通称「赤帯」と呼ばれている。

買切り制という強気な珍しい流通スタイルを取っている。このため、中小書店などでは岩波の本だけ一冊も置いてない、という事態が起こることがある。

昭和2年から続く膨大な出版リストを持つ。最近でこそそうでもないが、一時期は「今月の新刊」よりも「今月の復刊」の方が気になるとまで言われていた。

古典に圧倒的な強みを持つ。むしろ、岩波文庫入りすることが、「古典」の仲間入りを認められた勲章であるかのような扱いを受けている。このため、著者の殆どが故人であり、存命作家は数えるほどである*3

翻訳者には功成り名を遂げた重鎮が起用されることが多い。また、重鎮を起用してしまったばっかりに、新訳が出しにくくなり、驚異的な古さの訳文をそのまま販売していることも多いので注意が必要である。

ここで一冊・・・

新潮社

文庫化には慎重です

言わずと知れた大手出版社。かつての世界文学全集時代にも、トップランナーとして他社としのぎを削っていた。海外文学の版元としての歴史は長い。

正典ゾーンを新潮文庫で、現代文学ゾーンを新潮クレストブックスで抑えている。この他、ピンチョン、ガルシア=マルケスナボコフなど、作家に注目した叢書を時折発表し、マニアのハートと財布を釘付けにしている。

出版社URL:https://www.shinchosha.co.jp/

直販サイト:https://shincho-shop.jp/

新潮文庫

正典ゾーンの作品を買うのなら、岩波と並んでファーストチョイスとなる。全集時代の作品からの文庫化も多い。少数精鋭の刊行点数を息長く売っているイメージがある。このため、カバーデザインは新しくポップなのに、訳文だけやけに古いということがある。ただし、最近では「Star Classics 名作新訳コレクション」と銘打って、少しずつであるが新訳の点数が増えている。

ここで一冊・・・

新潮クレスト・ブックス

1998年にスタートし、息長く続いている海外現代文学の叢書。ソフトカバーで造本が粗く読みやすく、かつ値段も単行本より控え目で、ガイブン党の熱い支持を集めている。ただ、重版がかかりやすい一部の人気作品をのぞいて古い作品は軒並み品切れである。

イアン・マキューアンベルンハルト・シュリンクアリス・マンロー、リュドミラ・ウリツカヤなどの人気作家の作品をそれぞれ多数擁している。

ライバルの白水社エクス・リブリスと比べると、安定感がある印象を受ける。

ここで一冊・・・

早川書房

翻訳権独占

会社の規模としては中堅クラスだが、海外文学界隈では圧倒的な存在感を放つ。ミステリ、SF、ファンタジーなどのジャンル小説界の雄。それぞれのジャンルごとに細分化した多数の文庫レーベルを持つ。同社にそれほど馴染みのない私にはさっぱりである。ただ、その出版内容は必ずしもジャンル小説に限られるわけではなく、文芸色の強い作品を手掛けることもある。

単行本の発刊点数も多く、書店のガイブン棚を見るとあちらもこちらも早川書房ということも珍しくない。

出版社サイト兼直販サイト:https://www.hayakawa-online.co.jp/

ハヤカワepi文庫

epiは"epicentre"の略で、「すぐれた文芸の発信源」という意味だそうだ。正直、ハヤカワ文庫NVとの線引きが良くわからない。私の持ってる古い『1984』はNVだし。同社の文庫レーベルの中では文芸色の強いラインナップになっている。マーガレット・アトウッド*4、トニ・モリスン、カズオ・イシグロなど、現代文学のいいところが採録されている。

ここで一冊・・・

ハヤカワ文庫SF

同社の看板レーベルということで良いのだろう。アシモフ、クラーク、ハインラインのSF御三家から、最新のSF作品まで、凡そSF好きが避けて通るのは不可能なラインナップになっている。古書店などでも同文庫の品揃えをウリにしている店もあり、そういう店に入ると、トレードマークの薄水色がずらりと並んでいる。

ここで一冊・・・

河出書房新社

多分、私は3人目だと思うから

世界文学全集時代の主要プレイヤーの一角。しのぎを削るあまり二回も倒産をキメてしまった話は絶対に内緒である。

国内で最後の「世界文学全集」となった、池澤夏樹の本棚」池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」を発刊したことでも記憶に新しい。

文庫よりも単行本の発刊に力を入れている印象があり、早川書房と並んで、海外文学コーナーの占有率は高い。早川書房と比べると、早川がジャンル小説寄り、河出がやや文芸寄りだろうか。

この他、時折魅力的な叢書を発表することがある。代表的なところでは、オシャレな装丁と尖ったセレクトで人気の「奇想コレクション*5や、らしいセレクトでファン層を狙い撃ちした須賀敦子に仮託した池澤夏樹の本棚part2」須賀敦子の本棚 池澤夏樹=監修 」などがある。

出版社URL:https://www.kawade.co.jp/np/index.html

直販サイト:なし

河出文庫

自社の全集/単行本や、他社の叢書などからいわゆる「文庫落ち」として発行されたものが多い。時折、意欲的な文庫書下ろし作が発表されることもある。どちらかといえばやはり文芸寄りであるが、一部にSFや哲学書に分類されるような作品も収録されている。

ここで一冊・・・

池澤夏樹=個人編集 世界文学全集

名前こそ「世界文学全集」であるが、旧来的な正典中心の全集とはかけ離れている。比較的新しい作品までをも射程に、編者の眼鏡に適った作品が叢書的に編まれた作品群である。当ブログではその全冊について感想記事を書いているため、詳しくは下のリンクを参照していただきたい。

ここで一冊・・・?

光文社

いま、息をしている商材で

カッパ・ノベルス、JJ、CLASSY.などなど。どちらかというとチャラい出版社というイメージがあった。2004年頃、ロシア文学の先生から、「ある出版社に、古典の新訳を大々的にやろうという、すごい企画がある。」という話を聞いていた。しかし、そのすごい企画というのをまさかこの会社が手掛けているとは夢にも思わなかった。

もとは海外文学をあまり手掛けてこなかった出版社であるため、海外文学が出るのはほぼ「古典新訳文庫」からだけだと思われる。

出版社URL:https://www.kobunsha.com/

直販サイト:なし*6

光文社古典新訳文庫

いまや「正典ゾーン」の本を読もうと思ったとき、岩波、新潮に続いて三番目の選択肢はこのレーベルだろう。書店に行っても、海外文庫の在庫量はこの順番であると思われる。

創刊からまもなく20年となり、いよいよラインナップも充実してきた。収録作品は、いわゆる文庫書下ろしの作品が殆どである。「読みやすさ」最重視の編集姿勢のためか、岩波と比べると訳者のチョイスは挑戦的であり、専門外の人選がなされることも珍しくない。

そのためか、『カラマーゾフの兄弟』や『赤と黒』など、これまで様々な作品の関係で物議を醸しだしてきた。このため、毀誉褒貶の激しいレーベルという印象もある。

ここで一冊・・・

筑摩書房

全集の筑摩だった

河出や集英社と並び、かつての世界文学全集時代のプレイヤーの一角。河出が根強く海外文学を出版し続けているのに対し、筑摩書房人文書に軸足が移っているように見受けられる。このため、単行本の新刊はあまりなく、海外文学の出版社としては脱落気味である。ただ、筑摩文庫の中にはまだ見るべきタイトルがあり、決して捨て置くことはできない。

出版社URL:https://www.chikumashobo.co.jp/

直販サイト:なし*7

ちくま文庫

筑摩の面白いところは、全集時代が終焉を告げた後にも、文庫形式で「全集」という企画をやり続けたところである。代表的なところが、古書価高値安定の「チェーホフ全集」や、ちくま学芸文庫の方で出ている「ニーチェ全集」などであろうか。バートン版の「千夜一夜」全11冊や、失われた時を求めて全10冊(HSJM)などもあった。

現行では、中野訳でオースティンの全長編が読めるのが最大の魅力である。

ここで一冊・・・

集英社

ガイブン部門に資金を分けてくれ

こちらもかつての世界文学全集時代のプレイヤー。河出と並んで、最後まで出版を続けていた。それどころか、90年代に出版された「集英社ギャラリー 世界の文学」というシリーズは、まだ一部が根強く売られ続けている。

海外文学の単行本刊行も、河出ほど点数は無いが根強く続けてくれている。昨年も、ゴンクール賞受賞作の『人類の深奥に秘められた記憶』を刊行して話題となった。

マップの表記がいびつなのは、単行本/集英社文庫/同ヘリテージシリーズのそれぞれで守備範囲が全く異なるからである。

出版社URL:https://www.shueisha.co.jp/

直販サイト:なし

集英社文庫

ミステリ、サスペンス、ロマンスなどのジャンル小説を中心としたラインナップ。正直私にはあまりよくわからない。何かの勘違いからか、『存在の耐えられない軽さ』の旧訳を収録し、同文庫の古くからの売れ筋となっている。その他のクンデラ作品も収録されているが、ラインナップ全体から見ると異質である。

集英社文庫ヘリテージシリーズ

集英社の良心にして、尖りに尖った異質なレーベル。何せ収録作品が、「ダンテ、ジョイスゲーテプルースト、以上」*8なのである。ヘリテージというよりディフィカルトなのではないかと。

そして、新刊が無いまま10年余りが経った後、今度は突如「ポケット・マスターピース」と呼ばれるシリーズが同文庫から発売された。

かなり厚めの文庫で、1冊1作家、多数の作品が収録されている、昔の全集を彷彿とさせる構成なのが特徴である。抄録の作品も多く、敬遠する向きもあったが、収録作品・訳文・構成いずれもハイレベルで、過去にも当ブログでおススメをしたことがある。

ここで一冊・・・

adokawa

角川商法

元は文芸系の出版社であったが、大麻昔の社長が大衆路線に大きく舵を切った。メディアミックスの元祖ともいわれる企業。既に出版社というより総合エンタメ企業である。

正直この欄に取り上げるのを途中まですっかり忘れていた企業でもある。

出版社URL:https://www.kadokawa.co.jp/

直販サイト:https://store.kadokawa.co.jp/shop/

角川文庫

その忘れていた会社を思い出した理由がこのレーベル。現役の出版点数こそ多くはないものの、シェイクスピア、ポー、エラリー・クイーンなど、欠かすことのできない存在感を放つ作品が出版されている。

特にシェイクスピアについては、当代きっての名訳で、多数の作品が訳されている。

ここで一冊・・・

講談社

文庫界のプライスリーダー

出版売り上げトップ層の出版社であるが、海外文学の世界ではイマイチである。歴史的に、イニシエの世界文学全集販売競争でも完全に出遅れてる。

その余波は現代まで続いており、海外文学の発行点数は少なく、ほぼ単行本が出ることはない。近年、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』*9を発売し、しかもそれが話題作になったことに驚いたが、それ以前も以降もほぼ海外文学の発売はない。

スタンダードな文庫レーベル「講談社文庫」の他に、看板文芸誌「群像」麾下の「講談社文芸文庫」を擁する。

出版社URL:https://www.kodansha.co.jp/

直販サイト:なし

講談社文芸文庫

高い、攻めてる、品切れてるの三拍子が揃い、文庫界のプライスリーダーを独走中。

かつては、岩波/新潮の間隙を縫って、ヘンリー・ジェイムズ、ジョセフ・コンラッドジョージ・エリオットなど腰の入ったラインナップを展開していた。しかし、最近では海外文学の刊行は殆どなく、完全に近代日本文学のレーベルとなりつつある。

ここで一冊・・・

東京創元社

大創元不可避

早川書房と似た立ち位置の出版社。ホームページを開くと、ミステリ・SF・ホラー・ファンタジーの専門出版社を自称している。しかし、地味に一般文芸書もシブいセレクトをしていて、文芸ゾーンにも良書が多い。

これまた早川同様、文庫のレーベルが細分化している。ミステリ、ホラー、ファンタジーの創元ミステリ文庫、SFの創元SF文庫、文芸書の創元ライブラリである。近年、創元文芸文庫というレーベルが創始されたようだが、創元ライブラリとの違いがよくわからない。

海外文学の単行本の出版も随時行っている。ところで、気づいている人は少ないと思われるが、単行本と見せかけて「海外文学セレクション」というレーベルで出されている作品も多い。

出版社URL:https://www.tsogen.co.jp/np/index.html

直販サイト:なし

創元ライブラリ/創元文芸文庫

正直区別がついていないのでまとめてしまった。刊行点数こそ決して多くないものの、ダニロ・キシュ、ミロラド・パヴィチ、B.S.ジョンソンなど、知る人ぞ知る名作が文庫化されている。ガイブン好きなら一度はチェックすべきレーベルである。

ここで一冊・・・

海外文学セレクション

なんと歴史は新潮社クレストブックスより古く、1994年から開始されている。年に1,2冊程度、地味だが着実に刊行を重ねている。これをレーベルと呼ぶのに若干の抵抗があるくらい、レーベルとしてのアピールが実に地味である。

表紙のどこを見てもこれが「海外文学セレクション」の作品であるとの表記がなく、奥付けにひっそりと書かれているのだ。

・・・ここで一冊

白水社

『ふたりエッチ』の取り扱いはございません

もとは語学系、とくにフランス語関連に強みを持つ出版社。現在では、フランス語に限らず、世界中の言語の語学書を取り扱っている。その出自もあってか、取り扱う文芸書もほぼ海外のものである。海外文学好きなら避けては通れない出版社で、この会社がこの記事のトップにくるようにソートしようか悩んだほどである。

海外文学の新刊も多く、単行本/白水社エクス・リブリス/白水社uブックスから発行されている。忘れてはいけない、「ロシア語文学のミノタウロスたち」という革命後ロシア語文学専門のニッチなレーベルもある。

恐らく初版部数の違いだろうとにらんでいるが、単行本で出される本とエクス・リブリスで出される本の違いは全くの闇の中である。

出版社サイト兼直販サイト:https://www.hakusuisha.co.jp/

白水社エクス・リブリス

エクス・リブリスとは蔵書票の意味。新潮クレスト・ブックスと並ぶ刊行活発な海外文学レーベルである。国や地域、原語の言語に特化せずに広く現代文学ゾーンの作品を読もうと思ったら、ここかクレストの二択だろう。

ライバルのクレストに比べると選書は挑戦的であり、ホームランか三振かは言い過ぎにしても、ホームランかポテンヒットかといった塩梅である。

当ブログでは現在、このレーベルの全巻読破を目指している。

ここで一冊・・・?

白水uブックス

もともとの位置づけは、シェイクスピアの全集を刊行するためのレーベルだったのだろうか。いまやすっかり白水社の文庫レーベルの位置づけである。ただし、文庫レーベルといっても版型は新書版である。ややこしい。

自社の単行本/エクス・リブリスからの文庫化のほか、文庫書下ろしの書目も存在する。また、後述の国書刊行会の「文学の冒険」シリーズのような、他社の魅力的な作品の文庫版が登場することも多い。

ここで一冊・・・

みすず書房

文京の白い悪魔【新装版】

人文系中心の出版社で、主力は学術書である。重厚長大高額難解なイメージがある。そしてなんといっても、白が目立つ装丁の本が多いのが特徴である。学術書のかたわら、海外文学の作品が出版されることも多い。現行、海外文学系の叢書はなく、全て単行本として出版されている。

初版部数が少ないのか、ガイブン好きとしては、品切れが起こりやすく、かつ古書価が高騰しやすい出版社の代表格に見える。つい最近も、『カフカの日記【新版】』*10を発売(4月)するや否や、直ちに版元品切れ(5月)を起こし、重版は秋という謎ムーブを起こしている。

ただ、出版される作品自体は粒揃いであり、それがなおさら古書価の高騰を招いている側面もある。自社で文庫レーべルを持たず、かつ他社の文庫に収録されることも多くないため、ファンはひたすら復刊をお祈りする他ない。

出版社URL:https://www.msz.co.jp/

直販サイト:なし

ここで一冊・・・

国書刊行会

世界の書痴を喜ばす特殊版元

社名だけでみたら「ぎょうせい」*11や「金融財政事情研究会*12と並べても遜色がない。しかしその内実は、オタク心を熟知したヤバい本を次々と世に出す出版社である。

神保町のブックフェスでも、早川書房と並んで客層の鼻息の荒さは群を抜いている。上製本、函入りなど、凝った造本の書籍が多く、ファンはその書籍代を「国書税」と呼んでいる。『世界幻想文学大系』のヒット以降、様々な叢書・コレクションを展開している。いずれも統一感のある装丁で、マニアのコレクション心を誘ってくる。

今回紹介したレーベル以外にも、「ドーキー・アーカイヴ」など、魅力的な叢書・コレクションが多数あるため、是非版元ホームページを確認いただきたい。なお、どのレーベルにも属さない単行本として作品が刊行されることもある。

出版社サイト兼直販サイト:https://www.kokusho.co.jp/np/index.html

文学の冒険

残念ながら既に68冊を持って既に完結してしまっているが、同社の看板的海外文学レーベルである。英独仏露の文学的列強国の作品のみならず、東欧・南米・中東など、広い地域から作品が採録されている。現代の視点から見ても、90年代でこのラインナップを展開していたとは、その選球眼に驚かされるばかりである。

品切れ書目も多いが、今なお手に入る作品もかなりの数に上る。また、品切れ書目の一部は、前出の白水uブックスから刊行されており、こちらも要チェックだ。

ここで一冊・・・(品切れ注意!)

未来の文学

こちらも既に完結しているシリーズ(全20巻)。いわゆるSFと呼ばれるジャンルから、70年代~80年代の先鋭的な作品を収録している。収録作品には、SFファンから伝説扱いされていた作品も多い。このシリーズに触れずして、現代のSFファンを名乗ることはできないだろう。

品切れ書目こそあるものの、幸いまだ大半の本が手に入る。つい先だっても、品切れが惜しまれていたベスター『ゴーレム100』に重版がかかるなど、今から蒐集を初めても遅くない。

ここで一冊・・・

作品社

中の人は料理人なんです

何を隠そう、何も隠す気は無いが、私の最推し出版社の一角である。この出版社の本が好き、というより、好きな本好きな本がどれもが作品社の作品というほうが近しい。

みすず書房ほどおカタくはないものの、基本的には人文系全般を扱う出版社であり、その一部として海外文学も扱うという位置づけである。残念ながら海外文学の叢書は展開しておらず、いずれも単行本としての扱いだ。

ただ、一冊一冊のクオリティがどれも素晴らしく、この一冊をロングセラーにしようという意思が伝わってくる。実際に、小規模出版社にしては珍しいくらいの増刷を重ねている書籍が多い。なお、国書刊行会同様、品切れ書目の一部が白水社のuブックスに収録されている。

出版社URL:https://sakuhinsha.com/

直販サイト:なし

ここで一冊・・・

一冊といわずに・・・

何ならもう一冊・・・

水声社

アマゾンでは販売していません(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)”peko

元は「書肆風の薔薇」という中二病臭いカッチョイイ社名だった。みすず書房、作品社などと並んで人文系の専門書に強い出版社。中でも水声社は文学・批評系に特に強く、バフチンの著作やG・ジュネットの著作など、当該分野を学ぶ上で欠かせない書目を持つ。

国書刊行会の流れを持つ会社であり、海外文学の出版点数も多く、国書同様、複数のレーベルから刊行を行っている。後述の二つのレーベルの他にも、ブラジル現代文学コレクション、パスカルキニャールコレクションなど、ニッチな叢書を展開中である。

水声社を語る上で避けて通れないのが、amazonとの関係である。10年ほど前に、amazonの高率ポイント還元販売に反旗を翻した出版社が結構大きなニュースになったのをご記憶だろうか?その切り込み隊長こそが水声社である。

同社は現在でもamazonとの関係を断っている。従って、amazonに陳列されている同社作品はすべてマケプレ業者のものである。他社にまだ在庫がある商品も平気でプレ値で売られており、決して買うべきではない。なお、最近では店舗型の古書店においても、マケプレ価格を鵜呑みにして、版元在庫がある書籍をプレ値で売っていたりするので、要注意である。

出版社URL:http://www.suiseisha.net/blog/

直販サイト:なし(有料会員登録をすると、送料・手数料無料、消費税分値引きでメール注文できる。オススメ。)

フィクションの楽しみ

ジョルジュ・ペレックを始めとする実験文学集団ウリポの作品、アラン・ロブ・グリエ、コルタサルなどなど、フランスを中心に実験色の強い作品群を集めたレーベル。

せっかく面白いレーベルなのに、後述のエル・ドラードに比べると、装丁の統一感に欠けるのがやや残念である。ただ、実はよくよく目を凝らすと、背表紙の一番上に特徴的な三色のアイコンが光り輝いている。

ここで一冊・・・

フィクションのエル・ドラード

ラテンアメリカ文学の叢書。刊行点数は30冊を超え、国内のラテンアメリカ文学レーベルでは最大ではないだろうか。なお、半分近くをレーベル編者の寺尾隆吉氏が一人で訳出されており、尋常ではない仕事量である。歯に衣着せぬ書評を書く人物でもあり、なかなか面白い。

先述のフィクションの楽しみと比べると、装丁に統一感があり、こちらにはコレクションの楽しみがある。特に、書影画像などからはわかりにくいが、表紙に本文からの引用が小さな文字でちりばめられており、とてもカッコイイ。

ここで一冊・・・

松籟社

難読出版社の代表格

読みは「しょうらいしゃ」。水声社と同じく、人文系の書籍を刊行する専門出版社である。私がはじめて同社を認知したのは、ムージル著作集の刊行によってである。その他にもフラバル、ベルンハルトなど特にドイツ・東欧系に強い出版社という印象がある。

小規模な出版社で、刊行点数こそ多くないが、粒揃いの単行本に加え、「東欧の想像力」、「創造するラテンアメリカ」などいくつかの叢書で海外文学作品を展開している。

なお、直販サイトが凄く使いやすい上に、送料出版社負担なので超オススメである。

出版社URL:https://www.shoraisha.com/main/company/index.html

直販サイト:https://shoraisha.stores.jp/

東欧の想像力

「東欧」に注目したレーベルが他社にあっただろうか?キシュ、パヴィチ、トカルチュク、ハヴェル、ヘモンなどなど、知る人ぞ知る通好みの作家が目白押しである。ユーゴスラヴィアハンガリールーマニアチェコなどなど、作家の出身国も多彩であり、要注目のレーベルだ。

なお、ご承知のとおり過酷な歴史を辿った地域であるため、なかなかに圧の強い読書を要求されることもあるので、覚悟も必要だ。

ここで一冊・・・

群像社

文学新人賞はやってません

ロシア(語)文学の専門出版社である。何せ、ロシアがソビエトだった頃からの出版社であるため、「ロシア」として捕捉される地域の範囲は広い。ロシア文学好きの中では知らぬ人のいない歴史ある出版社だが、代表者一人切り盛りをしている一人出版社としても有名である。

ストルガツキイ兄弟やブルガーコフなど、有名作家の作品多数。代表的な叢書である「群像社ライブラリー」の他に、19世紀以前の作家を取り上げる「ロシア名作ライブラリー」もある。

出版社URL:https://gunzosha.com/ (昨年頃からなぜか更新が止まってる)

直販サイト:https://gunzosha.cart.fc2.com/ (こちらは更新されてる)

群像社ライブラリー

既刊48冊を数える、同社の代表的な叢書。新書版より少しだけ大きいサイズのソフトカバー。価格も控えめで、買いやすく読みやすい。ウリツカヤやペレーヴィンなど、20世紀ロシアを代表する作家の本を読むことができる。

ここで一冊・・・

未知谷

公式サイトは懐かしきインターネットへの入り口

出版書目は哲学思想・詩作・文学が中心であり、小規模出版社ながら海外文学の出版点数も多い。こちらも中東欧系の書目が多いが、アメリカ人であるジョン・ファンテの作品を多数刊行するなど、中東欧に限られるわけではない。

良くも悪くも、大手出版社が手掛けなかったであろうチャレンジングなタイトルが多い。そのためか、とても好きな書籍がある反面、クエスチョンマークが沢山飛んでしまうような作品もあった。

また、最近では採算の見込みにくい翻訳企画の出版のためにクラウドファンディングを実施するなど、実験的な取り組みも行っている。品切れ書目が少ない印象があり、ロングセラーや表彰作も多い。

同社には特に叢書はなく、基本的に単行本として刊行されている。なお、一番の売れ筋はエッセイ&レシピという異色本の『亡命ロシア料理』らしい。

出版社URL:http://www.michitani.com/index.html

直販サイト:なし(出版社サイトから注文はできる)

ここで一冊・・・

現代企画室

奥付けで初版部数を公開していくスタイル

社会運動系の本に、現代アート、そして海外文学と、変わったラインナップの出版社。海外文学についても、スペイン語圏の作品や、ラテンアメリカ文学など、異色どころに力を入れている。小規模出版社であり、刊行点数は多くないが、他では手に入らない有名作もある。

単行本でも海外文学作品を刊行している他、いくつかの叢書もあり、中でも1990年代に刊行されていた「ラテンアメリカ文学選集」が有名だろうか。最近ではセルバンテス*13作家の作品を集めた「セルバンテス賞コレクション」を刊行している。

出版社URL:https://www.jca.apc.org/gendai/

直販サイト:なし

ここで一冊・・・

幻戯書房

幻は見えていません

角川書店創業者である角川源義氏の娘であり、歌人である辺見じゅん氏が創設した出版社。創設経緯から、詩歌などにも強いが、当ブログ的にはなんといってもルリユール叢書である。2019年に刊行を開始した、「閉じることのない世界文学全集」を標榜する叢書。美しい装丁、硬派なラインナップから、海外文学ファンの熱い視線を集めている。

私も当然注目はしているが、一冊買ってしまったら全部集めてしまいそうなため、ずっと見ないふりをしている。

出版社URL:https://www.genki-shobou.co.jp/

直販サイト:https://genkishobou.stores.jp/

ここで一冊・・・

独立系出版社

一冊独立して一国独立す

何をもって独立系出版社というのか全くよくわかっていないが、ひとまず独立系出版社である。取次の違い?それとも規模の問題?規模だけでいうのなら、これまで取り上げてきた会社の中にも、ここで取り上げる会社と同じか、さらに小さい会社もありそうだ。

ともあれ、新進気鋭の海外文学を刊行する会社の中から、とくに私のアンテナに引っ掛かった三社を紹介する。

書肆侃侃房

難読系出版社。しょしかんかんぼう、と読む。独立系出版社の雄にして、最大の注目の的。主力は詩歌で、その道の人にとってはさらに有名なのではないだろうか。しかし、昨今では海外文学の刊行も相次いでいる。そして、これがまたイイトコ突いてくるんだ。

直営の書店もあるようで、直販サイトから本を注文すると、そちらから送られてくる仕組みになっている。

出版社URL:http://www.kankanbou.com/

直販サイト:https://ajirobooks.stores.jp/

ここで一冊・・・

北烏山編集室

社名のとおり、編集者による編集社が出自。2023年より出版を開始する。

ありがたいことに、海外文学/翻訳関連の本を主力とされるようで、この記事の作成時点で既に3冊が出版されている。いずれの書籍も四六判より大分縦長の、A5変形判という珍しい版型が用いられており、本棚に並べたときにそこだけ少し飛び出る。実際に手に持つととても読みやすく、編集マンらしいこだわりに納得させられる。

出版社URL:https://www.kkyeditors.com/

直販サイト:なし

ここで一冊・・・

あいんしゅりっと

できたてほやほや、2024年設立の出版社である。

刊行第一作目は、海外文学好きの誰もが驚いたブロッホウェルギリウスの死』である。何故驚いたかというと、この本、もとは70年代の世界文学全集に入っていた作品なのである。もちろんというべきか、訳者は鬼籍に入っている。

もとが全集であったがゆえに、復刊も望めず、一部のファンがどこかのレーベルに再録されることを待ち望んでいた作品なのだ。

出版社のHPを見ると、社名のあいんしゅりっととは、ドイツ語で「一歩」という意味であり、今後もドイツ文学を中心とした出版を継続されるとのことである。今後の展開がとても楽しみだ。

出版社URL:https://einschritt.com/

直販サイト:なし

ここで一冊・・・

 

最後に

冒頭にも書いた通り、ここに掲載の無い出版社からも海外文学作品は刊行されている。最近刊行が少ない会社(中央公論社)や、品切れのレーベル(異色作家短篇集)、私が詳しくないため書ききれなかった会社(ハーパーBOOKS)、ニッチ過ぎて見送った会社(彩流社)など、思い当たるだけでも沢山の出版社・レーベルがある。ぜひ、視野を広くもって本の海を泳いで行って欲しい。

また、愛するあまりに筆が滑った記述もあるかもしれないが、そのあたりはどうかご容赦いただきたい。ジョークへの批判は受け付けないが、建設的なご意見であれば、ブログのコメント欄かtwitterにでもお寄せ頂きたい。

願わくば、この記事をきっかけに良書と出会い、一冊でも多く海外文学作品を購入していただけたら幸いである。

*1:単行本等で発売した後に文庫に採録されるのではなく、初出が文庫で行われる、という意味。

*2:現代では正確には帯ではなく、帯が巻かれる位置にある背表紙の色である。これを何故帯というかといえば、昔は本当に帯が巻かれていたからだ。現代では、普通文庫というと、紙カバーが巻かれている。ところが、昔はカバーがなく、剝き出しの本に帯だけが巻かれていたのだ。

*3:クンデラ亡きあと、リョサクッツェーくらいしか思いつかない。

*4:翻訳権独占と書いてある舌の根が乾いたころに、この本は1990年に新潮社から刊行されましたと書いてある。

*5:全品HSJM、古書価も高い

*6:洋服を売っているサイトの系列で一部書籍が買える模様

*7:楽天ブックス扱い

*8:正確には萬葉集も含まれているが、結論に変わりはない。

*9:のち、講談社文庫化

*10:火夫かの日記【審判】と変換されたが、私はそれほどカフカ好きではない。

*11:出版社名である。

*12:出版社名である。

*13:スペイン語圏で権威ある文学賞