ウラジーミルの微笑

海外文学・世界文学の感想を長文で書くブログです。池澤夏樹世界文学全集の全巻マラソンもやっています。

『百年の孤独』の次はこれだ!文庫で読めるラテンアメリカ文学

はじめに

文庫で読める!!!

百年の孤独』は日本でももうかれこれ50年ほど売られ続けている。このため、正直「文庫化」がこれほどのインパクトを与えるとは思ってもいなかった。本を買い集めるためには金に糸目をつけない自分がいかに異端で、一般の読書人がいかに「価格」に敏感かを改めて思い知らされた。

このため、この記事ではあくまで手に入り易く価格も安い「文庫」にこだわって紹介をしている。

なお、忙しい現代人のために冒頭のここで結論も書いておこう。

百年の孤独』を読んだら、日本文学なり、ヨーロッパ近代文学なり、ふだんの自分の領域に戻る前に、絶対に絶対に絶対に、バルガス・リョサの長編から1作品、それとコルタサルの短篇集『悪魔の涎・追い求める男』を読んで欲しい!

さらばマジック・リアリズム

百年の孤独』≒マジック・リアリズムラテンアメリカ文学。これらはとかく結びつけられがちである。しかし、豊穣なラテンアメリカ文学マジック・リアリズムという小さな箱に押しとどめておくわけにはいかない

そもそもラテンアメリカ文学がこれほどの隆盛を誇ったのは、作家が社会的に尊敬される風土が醸成されたこと、人種的にも文化経済的にもヨーロッパと混淆していたこと、内戦や革命その他の事情により、コスモポリタンな作家が多数生まれたことなど、様々な下地がある。

従って、本稿では『百年の孤独』≒マジック・リアリズム後進国に生まれた突然変異としてではなく、ヨーロッパに次ぐ文化的土壌を持ち、ヨーロッパ近代小説の正統後継者でもある地域に生まれた「傑作群」の中の一つとして捉えなおしたい。

なお、そうかといって勢い余って難しすぎる作品をオススメしてしまうのを避けるため、各オススメ作品には主観的な難易度表記を付けておく。基準となる『百年の孤独』を★3として、最難読を★5としておいた。

百年の孤独』を読んでいる途中の人へ

実は当ブログでは過去に、『百年の孤独』の感想記事を書いたことがある。読了済の方にはぜひそちらのリンクもご覧いただきたい。

また、いま『百年の孤独』を読んでいる人、あるいはこれから読もうとしている人へいくつかのアドバイスを送りたい。

①「千日戦争」(wikipedia)と「バナナ虐殺」(wikipedia)について知っておこう

いずれも、コロンビアの史実であり、『百年の孤独』の背景となっている出来事だ。「バナナ虐殺」については、日本語版wikipediaに記事がないため、英語版を機械翻訳でざっと読むか、日本語でグーグル検索することをオススメしたい。

②ざっくり四部構成だと考えると読みやすい

本作は『ジョジョの奇妙な冒険』のように、主人公が代替わりしていく小説だと考えると、多少は読みやすくなる。それぞれ、第1部「ホセ・アルカディオ・ブエンディア編」(文庫版p.9-)、第2部「アウレリャノ大佐編」(p.163-)、第3部「ホセ・アルカディオ・セグンド編」(p.285-)、第4部「アウレリャノ・バビロニア編」(p.537-)と、4部又は4期に分けて読んでみてはどうだろうか。

③端役の位置づけがわからなくなったら・・・

本作には、数回しか登場しないサブキャラクターが多数存在する。このため、ページが飛ぶとどのような人物か忘れがちである。過去の感想記事の末尾に、若干の人物メモも付してあるため、もしわからなくなったら、参照していただくとわかりやすくなるかもしれない。

0.ラテンアメリカ文学全体を捉える入門書

さて、作品の紹介に入る前に、見取り図として、このジャンルの入門書を紹介しておこう。私が知る限りいま手に入り易いのは次の二冊。

中公新書の『ラテンアメリカ文学入門』勉誠出版から出ている『100人の作家で知るラテンアメリカ文学ガイドブック』である。

著者はどちらも同じ寺尾隆吉氏である。同氏は、猛烈な勢いでラテンアメリカ文学の翻訳をされている、まさしくトップランナーの一人である。また、研究者にしては珍しく、歯に衣着せぬ作品評が特徴である。

その舌鋒を味わいたいのならぜひ『ガイドブック』を手に取って欲しいが、手軽なら見取り図としてなら、やはり新書版の『入門』がオススメだ。本稿の作成にあたっても、両著作を何度も参照させていただいた。

なお、コメントで寺尾氏作成の次のリストをご紹介いただいたので、こちらも参照いただきたい。

http://www.jca.apc.org/gendai/html_mail/oshirase35_2.pdf

1.「ブーム」の時代の作家とその作品

*1

まずはじめに、「ラテンアメリカ文学」について少し説明をしておこう。
別名、「イスパノアメリカ文学」と呼ばれることもあり、一般的には南米のスペイン語圏の文学を指すことが多い。従って、同じ南米でもブラジルの作品は含まれない。

そして、1960年代~70年代にかけて世界的なブームとなっている。このため、いま読める/読まれている作品も、実はこの頃に訳出されたものが非常に多い。

この節では、この「ブームの時代」を牽引した5人のスターに焦点を当てたい。

ガブリエル・ガルシア=マルケス

百年の孤独』がお気に召したのであれば、ガルシア=マルケスからもう一作品というのも自然な流れだろう。

文庫化されている作品も多いため、表題のとおり予告殺人が起こる『予告された殺人の記録独裁者ものと評される『族長の秋』などをセレクトすることもできる。

しかし、『百年の孤独』で長編を味わったのなら、ここはひとつ中短篇にも目を向けてみてはいかがだろうか?そこでイチオシは河出文庫の『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』である。

この短篇集は日本オリジナル編集なのだろうか?実は私はこの刊本自体は持っていないのだが、何せ気に入っている作品が全部入っているという欲張りセットになっているのだ。彼の短篇の中で最高傑作と目される「純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語」、彼自身の出世作ともなった「大佐に手紙は来ない」、そして民話調の香りもある「巨大な翼をもつひどく年老いた男」など、どれもイチオシクラスの収録作品が読める。

お話の内容としては、どれも決して明るいものではないが、そこに暗さを感じさせない、ガルシア=マルケスの味というものが堪能できると思われる。

おススメ度:★★★

難読度:★★

②マリオ・バルガス・リョサ

続いてはペルー代表、マリオ・バルガス・リョサの登場だ。冒頭、「五人のスター」という書き方をしたが、ガルシア=マルケスとバルガス・リョサの両巨頭という書き方でも間違いではないかもしれない。しかしこの両巨頭、作風は全くの正反対なのである。

ガルシア=マルケスは作品群全体を眺めると中短篇に強みを見せるが、リョサは根っからの長編作家である*2。ガルシア=マルケスが自由奔放に書き連ねるのに対し、リョサは堅固な構成が魅力の作家である。実は書き手の私は、作家としてはリョサの方がお気に入りである。

リョサには名作が多く、正直どれを読んでもかなり面白い。反面、圧倒的代表作、金字塔に困る側面もあるかもしれない。

恐らく最大公約数的には、娼館〈緑の家〉を軸に五つのプロットが同時多発的に展開する『緑の家』がトップだろう。次点は、19世紀ブラジルで実際に起きたカヌードスの乱をもとに描かれた大長編『世界終末戦争』だろうか。あるいは、大江健三郎が激賞したといわれる、父と子の葛藤を描く『ラ・カテドラルでの対話』というこれまた大長編もある。

しかし、おススメするには長すぎることや、文庫化されていないことなどを理由にいったんお控えいただき、本稿では『都会と犬ども』をイチオシとしたい。同作は、光文社古典新訳文庫で『街と犬たち』のタイトルで文庫化されている。

同作は、荒れた軍人学校を舞台とする群像劇であるが、リョサ自身の青春時代を強く反映した作家の出世作である。冒頭から引き込まれるプロット、重層的な語りの構造、堅固な物語性など、リョサの魅力を知るにはうってつけの作品だ。

この他、都会の語りと密林に住む少数民族の神話的な語りを融合させた『密林の語り部』(岩波文庫)や、実在の画家ゴーギャンとその祖母で社会主義運動家のフローラ・トリスタンの二重奏の物語である『楽園への道』(河出文庫)は、過去に当ブログで取り上げている。どちらも名作であるため、もし興味があれば過去記事をご参照いただきたい。

『街と犬たち』

おススメ度:★★★★

難読度:★★

『密林の語り部

おススメ度:★★★

難読度:★★★

『楽園への道』

おススメ度:★★★

難読度:★★

③フリオ・コルタサル

お次はアルゼンチン代表、フリオ・コルタサルである。短篇の名手というベタな褒め口上が陳腐に思えるほどの短篇の名手である。作風としては、エドガー・アラン・ポーの作品を想起させるような、幻想的な作品が多い。

いくつかの短篇集が刊行されており、文庫の中でも選択肢があるほどだが、圧倒的なオススメは岩波文庫の『悪魔の涎・追い求める男』である。

コルタサルの短篇から代表作を挙げるとすれば、それは間違いなく「南部高速道路」である。南部からパリへと向かう高速道路。いつまでも解消しない大渋滞の中、やがて物語から時間の観念が失われる。巻き込まれた運転手たちの間で原始的な共同体が生まれ・・・

これをトップとするのは、他の作品を代表作に挙げる人に立証責任が生じるくらい衆目が一致するところだと思う。ただ、二番手となるとこれは難問だ。「続いている公園」、「占拠された屋敷」、「すべての火は火」・・・・。ほら、もう表題作以外から3つも挙がってしまった。

それもそのはず、この本は事実上の傑作選であり、本国で編まれた複数の短篇集からのいいとこどりがなされた本なのである。

短篇は趣味じゃないんだよね、という長編党の方には、一応、コルタサルにも金字塔的長編小説『石蹴り遊び』がある。しかし、これはちょっとにわかにはおススメできない。パリ留学中の主人公がオタサーの姫的女性に入れあげて失意の帰国をし・・・、という比較的シンプルなストーリーに加え、冒頭に二通りの読む順番が指定されているという実験要素には、興味をそそられる人も多いだろう。しかし重厚長大、思弁的衒学的・・・、素人を寄せ付けないその文体はさながらラテンアメリカ文学界の『ユリシーズ』なのである。

『悪魔の涎・追い求める男』

おススメ度:★★★★★

難読度:★★★(幻想的な味付けに注意)

『石蹴り遊び』

おススメ度:★

難読度:★★★★★★(6/5)

④カルロス・フエンテス

四人目に登場願うのは、メキシコからカルロス・フエンテスである。ところが、実はこの節を書くのにちょっと困っている。彼の出世作が『澄みわたる大地』で、代表作となる大長編に『テラ・ノストラ』があることは知っている。

しかし、文庫で読める長編となると、『アルテミオ・クルスの死』と『老いぼれグリンゴ』しかなく、前者は未読で後者は版元品切れなのである。

それともう一つ、『老いぼれグリンゴ』は読んでいるのだが、これがまぁ気に入らなかったのだ。私の酷い罵倒記事を読みたい方のために、末尾にリンクを貼っておく。

若干苦肉の策としてオススメするのは、これまた短篇集から『アウラ・純な魂』である。

コルタサル同様、ポーの風味がある作品が多いのだが、ポーはポーでも方向感が異なっている。コルタサルの場合は幻想的で、まるで白昼夢を見せられているかのような印象だ。他方、フエンテスではゴシック調であり、まるで悪夢を見せられているかのような雰囲気がある。作家自身のテーマなのだろうか、性×アイデンティティ×メキシコという主題を持つ作品が多い。なお、アウラ」は古い屋敷を舞台にしたホラー調の物語を、「純な魂」は兄妹の近親相姦的な感情を描いているが、屋敷を舞台にした兄妹モノのコルタサル「占拠された屋敷」と読み比べているのは面白いかもしれない。

おススメ度:★★

難読度:★★(ゴシック調の味付けに注意)

⑤ホセ・ドノソ

「ブーム」の時代最後の作家は、チリ代表ホセ・ドノソである。

表向きこの節の結論はおススメなし、である。何故なら、残念ながらドノソの作品は一つも文庫化されていない*3のだ。このため、この記事の文庫で読める作品という要件に合致しない。

それではつまらないので、一応紹介をしておくと、出世作が『境界なき土地』、そして押しも押されもせぬ代表作が『夜のみだらな鳥』である。ラテンアメリカ文学の中から、『百年の孤独』に匹敵する作品を選ぶとしたら、それはこの『夜のみだらな鳥』になるだろう。

いやもう、『百年の孤独』と同じか、それを超えるカオスな物語で、この短いスペースでこの作品を語るのは無理というものだ。無理やり要約するなら、ろうあ者の語り手が、畸形園を管理していた頃を回想するというグロテスクなお話だ。誰かが本作を評して、ヒエロニムス・ボスのようだ、と書いていたので、ぜひ大塚国際美術館で撮った次の複製絵画を拡大して眺めて欲しい。うん、こんな作品だ

おススメ度:★★★(ほんとは★4だけど高価なので遠慮気味に)

難読度:★★★★

2.「ブーム」前、そして「ブーム」後の作家から

ラテンアメリカ文学の名品たちは、もちろん「ブーム」期の作品に限られない。「ブーム」前にも作家がいて、「ブーム」後にも作家が生まれた。そこで本項では、この記事で紹介するに相応しい作家を特に3人だけピックアップしてみた。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス

ブーム前の代表格はやはりこの人。早口言葉みたいな名前だが、ラテンアメリカ文学の世界では長老格のアルゼンチン人だ。文学通の中では知らない人はいない伝説的な巨匠で、好みによってはガルシア=マルケスよりも格上に見る向きもあるだろう。小説のみならず、批評の分野やアンソロジストとしても功績を残し、コルタサルを見出すなど、ご意見番的なポジションでもある。

作品としては、短篇の名手(本稿二回目)というか、長編作品に否定的な短篇専業の作家である。幻想、迷宮、円環、図書館、本のための本、メタフィクション・・・こうしたキーワードにピンときたらボルヘスである。短めの短篇が多いが、読み手に想像力と読解力を要求してくるので、そのあたりは注意が必要だ。

文庫で読める短篇集もいくつか出ているが、イシオシは岩波文庫の『伝奇集』だろう。なお、冒頭の「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」はとても好きな短篇だが、この作品集でも最も難解な部類のため、意味がわからないと思ったら遠慮なく飛ばしてしまおう。作家本人はそれほど気に入っていないようだが、最も有名なのは「バベルの図書館」という短篇である。この一作だけのためにでも手にとって欲しい一冊だ。

おススメ度:★★★

難読度:★★★★(短いがやや難しい)

イサベル・アジェンデ

続いてはブーム後世代のチリの作家。なんとピノチェトに政権を追われたアジェンデ大統領の親族である。

百年の孤独』のような、あの怒涛のような勢いの物語が読みたいんだ!という方に真っ先におススメできるのが、河出文庫『精霊たちの家』である。売り上げ面でも、恐らく『百年の孤独』についで2位につけていることだろう。

比較的長い長編であるが、いわゆる大衆向けのベストセラーに位置付けられており、プロットの吸引力はピカイチだ。反面、文学性や深みは力不足の感が否めない。

こちらもやや酷評気味ではあるが、過去に感想記事を書いたことがあるので、興味がある方はそちらもご参照いただきたい。

おススメ度:★★

難読度:★

③ロベルト・ボラーニョ

こちらも同じくブーム後世代から、チリの有名作家である。実は、文庫化されている作品がなく、本欄で紹介するにはそぐわない作家である。しかし、国内外問わずとても人気が高く、最近白水社から「ボラーニョ・コレクション」のシリーズ名で作品が多数出版されるなど、注目度が高く、ぜひ知っておいていただきたいと思って紹介した。

この世代の作家になると完全に「ラテンアメリカ性」みたいなものとは無縁であり、端的に「おもしろい外国の作品」として捉えるべきである。

『2666』のような大長編も書いているが、本欄でおススメするのは『野生の探偵たち』という長編作品である。探偵もののように思えるが、この小説で探偵となるのはむしろ読者の方である。ある女性詩人の足跡を追っていくストーリーだが、間接的・断片的な証言が積み重なることにより、読者に対してそれが浮かび上がる仕掛けになっている。

おススメ度:★★

難読度:★★★

3.おまけ・・・

ここからは、ラテンアメリカ×文庫という本論のテーマから少し逸れた参考作品などを紹介したい。

①遠い異国から・・・

ラテンアメリカ文学」というタイトルからは大きく外れるが、『百年の孤独』の読者に強くお勧めしたい作品がある。その作者の名は、ミハイル・ブルガーコフ。そう、ロシアの作家である。

彼の代表作である『巨匠とマルガリータ』(岩波文庫)は、私の見るところ極めて『百年の孤独』の作風に近い。次々と起こる奇妙な出来事、息もつかせぬ展開、カオスな物語の中にはっきり存在するカタルシス・・・、地球の反対かと思われるほど遠い国の作家であるが、精神的な兄弟のように思える。

本当に読みたいのが『百年の孤独』みたいな作品、なのであれば、その答えは南米ではなくロシアにある。

おススメ度:★★★★

難読度:★★★(ロシアとコロンビア、どちらがイメージしやすいか?)

②禁断の一作

続いては、文庫という縛りも、入門的作品という縛りも取っ払った禁断の一作の紹介だ。これはもう、ラテンアメリカ文学のラスボスというに相応しいだろう。

『石蹴り遊び』の持つ難解な思弁性、『夜のみだらな鳥』の持つグロテスクさ、『百年の孤独』の持つファミリーヒストリーとしての側面。これらすべての要素を持ち、カオスの極みに到達してもはや破綻してしまっている作品があるのだ。

そのラスボスとは、ホセ・レセマ=リマ『パラディーソ』である。この極北のような作品は、間違っても他人におススメしてはいけない

ただ、ラテンアメリカの世界にはこういう異端な作品もあるんだということをぜひ知っておいて欲しい。

おススメ度:☆

難読度:★★★★★★★

③オススメレーベルについて

最後は、ラテンアメリカ文学沼にずっぽりハマった人のために、更なるラテンアメリカ文学の探し方のガイドだ。

まずは、冒頭で紹介したガイドブックを手に取るのがいいだろう。

それと、実際の作品の探究にあたっては、水声社の「フィクションのエル・ドラード」シリーズと、松籟社の「創造するラテンアメリカ」、そして現代企画室の「セルバンテス賞コレクション」の各レーベルがオススメである。どれも充実したラインナップで、手を出すとキリがないさまは正しく沼である。

これまで紹介した作品と、作家被りが無いように各レーベルから一冊ずつ紹介しておこう。水声社からは独裁者小説として名高いカルペンティエールの『方法異説』、松籟社からは麻薬組織の暗躍を描いたガブリエル・バスケスの『物が落ちる音』、現代企画室からは実験色が強く『トリストラム・シャンディ』のようなカブレラ・インファンテの『TTT』などはいかがだろうか。

なお、次の記事では、手短にではあるが各レーベルの紹介をしているため、こちらも併せてご覧いただきたい。

4.おわりに

ここまで読んでくれた奇特な人は少ないだろう。

そこで一つ、どさくさに紛れて新潮社に文句をいいたい。

それは、「『百年の孤独』が文庫化された世界が滅びる」という読書家の間で有名だったネタを、文庫化にあたり自ら販促ネタにつかったことだ。

私の見るところ、そもそもこの滅びるネタは、「世界が滅びても文庫化しないくらい、あそこはケチだ」という含意のあるある種の皮肉であったはずだ。その行間が読めなかったのか、あるいは読めたのに敢えて販促ネタに使ったのかは知らないが、いずれにせよ品性がその疑われる。

そこでぜひ、新潮社にはその責任を取って、リョサ『世界終末戦争』とリョサ『都会と犬ども』の二作品を、『百年の孤独』に引き続いて文庫化していただきたい

*1:地図データ ©2024 Google

*2:短篇も書いたらしいが、評判は悪く、私も読んでいない。

*3:正確にはかつて短篇集が文庫化されていたようだが、残念ながらHSJM。