Oh Freud nicht diese töne!
少なくとも、その当時夢に彼女があらわれたことはぼくの記憶にない。
そのころぼくは、『千夜一夜物語』のような夢を見ていた。空を飛ぶ夢!何千もの硬貨を群衆に投げる気前のよい紳士になった夢!(p.251)
<<感想>>
今回は他の作品の引用から。
いつもと同じように、言っておきたい、いつもと同じように、ウィーンの代表団は招待されていないと。((『キング、クイーン、ジャック』「英語版への序文」より、新潮社版p.429))
いっそのことこの引用だけで今回の感想は終わりにしようかとも思った。
ナボコフのいう「ウィーンの代表団」とは、もちろんフロイト(派)のことを指す。
毛嫌いしていたのは、作品を精神分析的に批評する行為なり、作家を精神分析する行為ゆえだろう。
これは、私が本作との関係で「招待していない」と思うのとは少し違う。
私が言いたいのは、フロイトの作った物語・神話のヴァリエーションを読まされるのはもういい加減ウンザリ、飽き飽きだということだ。
昔、心理学の授業で習ったところによると、フロイトの業績に関しては、心理学の世界の内部でも、功罪の「罪」の部分にスポットが当てられることもあるようだ*1
しかし、私に言わせれば、フロイトが殺したのは父親ではなく、後の物語解釈の独創性と物語創作の独創性であり、それ故に罪を負うべきだ。
今日、"フロイト"という単語を出さずに、ソポクレスを批評することが果たして可能だろうか。「フロイトをいったん忘れて読みましょう」という言及も含めて考えれば、これは実に不可能に近い*2。
アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)
- 作者: エルサモランテ,ナタリア・ギンズブルグ,中山エツコ,須賀敦子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/10/11
- メディア: 単行本
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*1:『抑圧された記憶の神話』という書籍が課題図書だった。この本に対する反批判もあるようだが、これは私の関心とは異なる。