20世紀文学
孤独な旅行者の夢想 万事上々。祈りとアブサンがゲームに加わって、文明国の市場では植民地株が上昇する。(p.30) <<感想>> なかなかどうして快作である。 本書をごくごく簡単に要約するとこうなる。 20世紀初頭、一人のフランス人の若者がアラビア半島のアデ…
ディケンズ時々バルザック、そして それが思い出というものの実体なのです―知覚、視覚、嗅覚、わたしたちが見たり聞いたり触れたりするときの筋肉―心でもない、思考でもないもの。どだい記憶などというものはありません。それらの筋肉が探りあてるものを脳髄…
アフリカの叙事詩? わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。当時は、タカラ貝だけが貨幣として通用していたので、どんなものでも安く手に入り、おまけに父は町一番の…
いかさま師ディネセン イギリスのおだやかな風景のなかの小川と、アフリカの山地の尾根とのあいだに、デニスのたどった生涯の道がある。その道が曲折し、常軌を逸していると見えるのは目の錯覚である。彼をとりまく環境のほうが常軌を逸しているにすぎない。…
新訳出来! twitterでやれ。といわれそうだけど、アカウントを持っていないのでブログで。 一か月ほど前だろうか。amazonがナボコフ先生の新訳情報を持ってきた。 気を効かせてカートにでも、いや自宅の宅配ボックスにでも入れておいてくれていれば良かった…
冷静と情熱と香気と悪文のあいだ 「・・・あの人の頭は本の滓、文化でいっぱいで、わたしたちはあの人がそんなものは頭から洗いだして本物が好きになるといいと思っているんです。どうすれば生きて行くことに負けずにいられるか教えたくて、さっき言いました…
翻訳の悲しみ キエンは自分の精神の復活、心理的活性の回復を感じた。それは過去への復活だった。過去へ、さらに過去へ―彼の心は過去への溯航距離を日ごとに伸ばすだろう。彼の脳裡に立ち現れる過去の事物と人間の連鎖の中で、彼の精神は絶えず復活を繰り返…
純粋理性批判 あのときはついておらず、風も通さぬ麻布の蚊帳のなかで汗をかきっぱなし、ひと晩じゅう真っ暗な坑道の悪夢のなかで掘っていた。そのときぼくのコオロギの王を失ってしまったのだ。そいつはぼくのポケットから跳び出して坑道の溝に跳びこんだき…
セバスチャン・ナイトは私だ きみと一緒の生活はすばらしかった―そしてぼくがすばらしいと言うとき、ぼくは鳩や百合の花、そして天鵞絨(ヴェルヴェット)、さらにその単語のあの柔らかなVと長く引き伸ばしたlの音に合わせて反り上がったきみの舌の反り具合の…
ゴーゴリの二の舞 「どうか証明書を見せてください」と女は言った。 「何を言うのです、結局、そんなことは滑稽なものです」とコロヴィエフは譲らなかった。「作家かどうかを決めるのは証明書なんかではけっしてなくて、書くもの次第なのです!・・・」(p.52…
プルーストはお好き? <<感想>> ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。その感情はあまりにも自分のことだけにかまけ、利己主義な感情であり、私はそれをほとんど恥じている…
早すぎたケータイ小説 この川はカンボジアの森のなかのトンレサップ湖から始まり、出会うものすべてを拾い集めてここまで来た。それは訪れてくるものすべてを連れてゆく、藁小屋、森、消えた火災の残り、死んだ鳥、死んだ犬、溺れた虎、水牛、溺れた人間、罠…
オイディプス女王 ≪感想≫ ソフト帽は映画からそのまま脱け出たみたいだ―女の件で気がむしゃくしゃするから、財産を半分賭けに、四十馬力の車に乗ってロンシャン競馬場へ行く前に無造作にかぶるような帽子である。(p.32) 清々しいほどつまらなかった。 あまり…
重いクンデラ試練の道を あいかわらず四つん這いになっていたトマーシュは、後ずさりし、体を縮めて、ウワーッと唸りだした。そのクロワッサンのために闘うふりをしてみせたのだ。犬は主人に自分の唸り声で応えた。とうとうやった!それこそ彼らが待っていた…
カウンター・カルチャーの「王道」 とつぜん、気がつくとタイムズ・スクエアだった。アメリカ大陸をぐるりと八〇〇〇マイル(12785km)まわって、タイムズ・スクエアに戻ってきていた。ちょうどラッシュアワー時で、ぼくの無邪気な路上の目に、ドル札めざして…