電話やメールじゃなんだから ああら!あなたはもうわたしのことなんか忘れちゃったんだと思ってた。 いくらイエメンでも、インターネットカフェへ立ち寄ってちょっとメールするくらいのことができないだなんて、言わないでよね。最近どこかへ行っていて、だ…
銀の龍の背に乗って 「お前らにはわからんのだよ。チアリーダーだろうがチームのレギュラーだろうが、なんの保証もありやしないんだ。いつ何がおかしくなっちまうか、わかったもんじゃないのさ」と、自分も高校でクォーターバックか何かだったリチャードが言…
<<前置き>> ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』の読書会である"Deep Dubliners"用のメモ。今回は第三回目、"Araby"こと「アラビー」である。なお、いつもどおり訳語は柳瀬訳に拠ることにする。 この記事の目的や本作読解の方針、参考文献などは初回記事を…
ああ 心に愛がなければ テキストは互いに異花受粉するため、何世紀もの時代を飛び越えているのだ。(p.65) <<感想>> イラン出身の作者の小説を取り上げるのは、『スモモの木の啓示』【過去記事】に続き2回目となる。 作者のアザリーン・ヴァンデアフリートオ…
きっかけは錯覚でもいいから 「聖書を信じるくらいですもの。わたしの話だって信じるはずだわ」(p.346) <<感想>> 今回は、だいぶ昔に読んだ作品の再読をしてブログのコンテンツを充実させるシリーズの第?段『百年の孤独』。そう、傑作である。 猫ならまだし…
今 心の地図の上で 起こる全ての出来事を照らすよ 「・・・小僧、いいか。世界にはずっと誰にも知られないままのことだってあるんだ。人の目が見たものが絶対とは限らない。」(p.19) <<感想>> 珍しく引用、それも長いものからはじめてみたい。 一か月後の同…
手錠かけられるのは只あたしだけ そもそも、そういう話が語られることがあるとすれば、僕が唯一の語り手のはずだった――物語を語ることにおいては、僕は一族でただひとりのプロなのだから。(p.162) <<感想>> 本作は一応、連作短篇ということになっているが、…
And let me play among the stars 「俺は別に、」とコミャーギンは言った。「俺はだって、生きているわけじゃない、俺はただ人生に巻き込まれただけなんだよ、どうしてだか、この件に引っぱり込まれたんだ…でもまったく無駄にね!」(p.106) <<感想>> これは…
たとえ世界が生き場所を見失っても ・・・そもそも自分の性には合わない優雅な職につきたいと日ごろから願っている人間に、自分の身の丈に合っていた職を捨てさせてみるがいい。その人間は必ずや、お恵み深い僥倖を崇めたてまつる宗教に凝るようになるだろう…
<<前置き>> ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』の読書会である"Deep Dubliners"用のメモ。今回はその2回目で、"An Encounter"こと「出会い」である。なお、訳語は指定図書であるところの柳瀬訳に拠っている。 この記事の目的や本作読解の方針、参考文献…
だからまだ ここで光が差すまで 家具を焼き、何千という本を焼き、絵画は全部焼いた。絶望があまりに深くなったある日、とうとうこのムクバル族を壁から下ろした。絵を掛けていた釘を引き抜こうとした。・・・そのときふと思った。この小さな釘が壁を支えて…
あの日 目を覆った 隣のあなたは微笑む 戦争やイスラエルの国境での紛争でマスカリータに弾があたっていないように、私はタスリンチに頼んだ。(p.148) <<感想>> 文学などという一介のエンターテイメントが、なぜ大学で研究なぞされているのだろうか。 それは…
あの日生まれた恋心 『ナボコフ全短篇』シリーズの3回目。今回は、アメリカで出版された4つの「一ダース」に収録されていない16作品、「その他」編である。 「一ダース」に収録されなかった理由は、VN本人がセレクトしなかった作品、発表されていたが逸…
夢にまで見た淡い夢 前回の「ナボコフの一ダース」相当の13作品に引き続き、今回は4つの「一ダース」から「独裁者殺し」相当の作品を取り上げたい。 内容としてはロシア語時代の作品が12個に、英語時代の「ヴェイン姉妹」を加えた構成となっている。勢…
シャガールみたいな青い夜 経験上、短篇集の感想を書くのは大変だと知っているので、これまで避けていた作品集。 しかし、今回この鈍器オブ鈍器、作品社の漬物石【参考リンク】こと『ナボコフ全短篇』を再読する機会が訪れたので、これを気にブログで取り上…
輝く時間を分けあった あの日を胸に今日も生きている 2017年7月13日に最初の一冊を読んで、約5年半もかかったこの企画。途中に『失われた時を求めて』を再読したり、ナボコフ・コレクションを読んだり、まるっきり初心者から1年かけて将棋の段位を…
明日の月日のないものを 第2集読了からは約4か月。順調にあちこち浮気してようやく第3集も読み終わった。 今回は別に全体総括の記事を用意しているため、この3集について書くか迷ったが、せっかくだから書いてみることにした。 作品数が4作+短編という…
変わりゆく街は明日なき無情の世界 さて、短篇コレクションも2冊目。とうとう本全集最後の1冊となる。 前回同様、概要/背景/本のつくり欄も省略で、書きたい部分だけ各作品の項目で触れることにする。また、本巻は2023年4月現在まだ手に入るようだが、各作…
ナツメロのように聴くあなたの声はとても優しい ぼくが子どもの頃、村の年寄りたちは日向ぼっこをしながらマニ車を回していた。その頃はまだ、時という風は今ほど速くはなかった気がする。昼と夜は年寄りたちが回すマニ車のように繰り返しやってきて、果てし…
<<前置き>> 2023年-2025年の計画で行われているジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』の読書会である"Deep Dubliners"に参加しています。その準備として『ダブリナーズ』の全15短編について、各短編ごとの記事を書いていく予定です。 目的はもっぱら読書会…
ほんの一夜の物語を行こう! 「すでに記されていて、書き換えることのできないものに乾杯!」(p.18) <<感想>> イラン文学、である。 しかし、この物語をイラン文学と規定するのは、同じくイランに出自を持つ『千一夜物語』をイラン文学と規定するのと同じだ…
この世はでっかい宝島 ワインのテイスティング用語で、水平試飲と垂直試飲という言葉がある。 水平試飲というのは、ヴィンテージを固定した上で、同じ畑の違う生産者のワインとか、同じ生産者の畑違いのワインとかを飲み比べることをいう。垂直試飲というの…
二人ここから 遠くへと逃げ去ってしまおうか 冒頭に引用が来ないとしっくりこないね!でも、アンソロジーなので、引用は各作品の項目ですることにしました。また今回は概要/背景/本のつくり欄も省略で、書きたい部分だけ各作品の項目で触れています。 本巻は…
いつのことだか思い出してごらん ドイツ人は毒ガスを発明し、イギリス人は戦車を発明し、科学者は同位体元素や一般相対性理論を発見した。この理論によると、形而上学的なものは一切なく、すべては相対的であるという。(p.5) <<感想>> 「二〇世紀史概説」で…
生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに 海の上はほんによかった。じいちゃんが艫櫓ば漕いで、うちが脇櫓ば漕いで。 いまごろはいつもイカ籠やタコ壺やら揚げに行きよった。ボラもなあ、あやつたちもあの魚どもも、タコどもももぞか(可愛い)とばい。四…
好きなの?って訊けたらいいのにね すぐれた芸術家というものは、お嬢さま、みなさんにはどうしてもお分かりいただけないものを持っているのです(p.91) <<感想>> だいぶ前に『アフリカの日々』を読んでお気に入りだったディーネセン。 このブログにも何度か…
行儀よくまじめなんて出来やしなかった かりに私が・・・私の統治する王国をえらぶことをゆるされたとしたら、・・・私は心から笑う国民たちの国をえらびましょう。・・・私がもう一つ私の祈願に加えたいのは――神がわが統治する国民たちに、陽気であると同時…
HEART燃えているなら 後悔しない 「・・・嘘ではない、けれど真実でもない。何というか・・・。真っ赤な嘘だったらすぐわかりますよね。この事件、正しいことと間違ったことの間には、紙一枚の幅もなかったんです」(p.143) <<感想>> 私以外にもそういう人は…
線をひかれた ここからキミ入れないと 映画館では、努力せずに夢を見られる。やらなければならないのは、座席の背もたれに寄りかかり、目を開けていることだけ。(p.27) <<感想>> 怖い怖い怖い怖い。本作の第一部のタイトルはそのまま「恐怖」。 何が怖いって…
帰りたくないから止めないで 世界文学を読むとは、実はそのようなぐらぐらした、不安定な流れの中に身をゆだねることなのです。たとえるなら、きっちりとしたかたちのあるものではなく、不断に更新されるソフトウェアなのです。(p.14,まえがきより) <<感想>…